感想文ブログ

作品をもう観たという方に、私の個人的な解釈を伝える為の内容を溜めます。

傷物語Ⅰ鉄血篇 ネタバレ感想考察5

○奪還
[原作 005章(72p~86P)]

 

人間に戻る為に専門家達からキスショットの身体の部位を取り返さなければならない事実を理解し、夜の街を歩きまわっていたところにその専門家たちからの襲撃を受ける。
謎の男に絶体絶命のピンチを救ってもらうまでのシーン。

 

キスショットの依頼や意図を疑いつつも、夜になった街へ。妹からのメールは割愛。ここで専門家の三人と出会いますが、三叉路から踏切へと変更されています。横切る電車の裏で唐突に表れる演出をするためだったのでしょうか。
突如登場したドラマツルギー、エピソード、ギロチンカッターですが、三者それぞれに特徴的な個所が見受けられました。
まずはドラマツルギー。彼は吸血鬼そのものですので影ができません。そのためネタバレを意識してか、登場してから影が発生しないような立ち位置や捉え方で終始します。とはいえ手の形状や身体能力を鑑みると、あまり隠せていないような気もします。ただ吸血鬼にのみ起こるように見えた赤目表現は確認できましたが、この点は確証が持てません。化物語でも暦が吸血鬼の能力で人では見えない距離のものまで見ようとする際、目が赤くなる表現がありましたが、引き継がれているかは謎です。
エピソードはヴァンパイアハーフのため、大仰な影が発生。ギロチンカッターも同様となります。

 

三名の台詞のやりとりが原作と違い暦には徹頭徹尾解らないものとなっていたため、三名の怪異に対する残虐性が少し薄れてしまっているように思います。
しかし、激昂する暦の台詞の直後に赤駒で今回のお話のタイトルでもある「KOYOMI VAMP」という文字が映し出されるとこは多少くどいのかなと思いつつも胸に来るシーンでした。
自分の存在を蔑ろにされて怒りを覚え叫んだその直後、自分はもう人間ではないのかという気付きと共に襲ってくる無力感を感じる暦の心情を説明するとなると、ここでのタイトルの使い方は素晴らしいなと思いました。

 

同時間帯、囲まれる暦に手を貸そうと現場に向かう忍野の姿は傷物語の中でも最もこれまでのシリーズより逸脱している箇所にも見えるため、初見ではそのバランスの崩れによりなんともいえないシーンとして受け取っていましたが、二回目以降は現場に急行する際のイメージ映像として考えることにしました。そう見ると、忍野の超人性はさて置き、かっこいいシーンと感じれるのではないでしょうか。
当然、ギリギリいっぱいで到着し三名の専門家の動きを止める様は、忍野最大の見せ場という事もあってかっこいいの一言に尽きました。

 

そこから忍野との会話シーンへと場面を変えます。

傷物語Ⅰ鉄血篇 ネタバレ感想考察4

○少女
[原作 004章(54p~58P,60P~72P)]

 

目覚めた暦。自分がどこにいるかさえ解らずに一度外へ出た途端に炎上。
パワーダウンの影響で幼児化したキスショットに救われ、これまでの話を断片的に聞くこととなり、暦は人間から吸血鬼となった旨と、人間に戻れることを理解するまでのシーン。

 

157365:35:16:00周辺の数字の並びから新しい一幕がスタートします。
これは時間、分、秒、ミリ秒を表わしており、計算すると約17~18年となるので、暦の生きている時間の刻みと考えられるでしょう。そして死んだはずの暦の時間が動き出しており、ある種生き返ったという表現がなされています。
3/28。起きぬけの暦に牙は見受けられませんでしたので、まだ変貌を遂げている途中なのでしょうか。
ここで隣に寝ている少女と化したキスショットに気が付きます。必死に起こそうとする暦はキスショットの身体を揺らしますが、この時の質感が本物の子どもかと思うほどの精度となっていてかなりリアルに感じました。
起こす事を諦めた暦は部屋の外に出て、劇中冒頭のシーンへと繋がりますが、この時の暦のテンションと冒頭のテンションとが全く繋がっていないように見えたのは不可解でしたが、学習塾後を徘徊しているうちに焦りを覚えてというところで無理矢理納得しました。

 

場面は冒頭シーンの続きへと切り替わり、暦を助けるキスショット。派手なアクション中、キスショットも吸血鬼なので当然太陽光の影響で燃え蒸発しかけます。
なんとか助け出したキスショット。ここからキスショットの魅力が存分に表現されるシーンの連続となります。待ってましたと言わんばかりの「んっ!」、バルーンパンツをたくし上げる姿、頭を撫でられる姿等々。とにかく可愛らしいキスショットのシーンが続き、先程までの勢いを忘れ、気が綻んでいく感じでした
またここでは暦の腕時計が実写っぽいものになっていたり、キスショットと会話しているバックに富士山が見える意図、服の形状が変化しているなど、不思議に思うところが数点残りました。

 

歩きながらの会話中で聞ける暦の返答、「そう…なのか」に込められた気持ちに胸が騒いだり、キスショットからすると「死ねるのか?」という意で聞える「人間に戻れるのか?」という質問に名をかけて答える姿は事の顛末を知っているとかなり引き込まれる部分でした。

 

そしてそのために協力が必要な事をキスショットは説明し始めます。

傷物語Ⅰ鉄血篇 ネタバレ感想考察3

○吸血
[原作 003章(34p~54P)]

 

昼の出来事を引きずった暦。その気持ちのまま夜に自宅を内緒で抜けだし本屋さんへ。
その帰り道に瀕死の吸血鬼、キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードと出会う。
暦はキスショットを救うために自らの生命を持って人より上位の存在を救うまでのシーン。

 

鞄の動きと暦の部屋の時計とがリンクして数時間後の夜のシーンへと場面が切り替わります。
この時の時計が回転している演出が、化物語一話における戦場ヶ原と出会う直前に入る校庭の時計が回っている演出を連想させ、この先になにか大きな出会いが待っていることを予感させます。
部屋を飛び出し、家族に外出した事を悟られぬよう徒歩で書店へと向かう暦。
サイボーグ009、やる気まんまんのオマージュ等を挟み書店へと急いで駆け込みますが、ここでの暦は単純に羽川の下着を見てしまい興奮を抑えるためではなく、あんなにいいやつである羽川に対して劣情の様なものを抱いてしまっている自らを苛み、その感情を消すために元となる羽川の下着の記憶を薄めようとした為の行いである点がほぼ解らない作りになっています。
ただ、このモノローグも言い訳の様に語られている点なので、実際はカットされても致し方なしという部分なのでしょうか。
書店へと到着した際に場面が切り替わっての壁で、今作二番目に劇場が沸いた感じでした。
目的の本を購入し帰り道、最初のモールス信号が発生します。このモールス信号は「SOS」を意味すると同時に、構成する「トン・ツー」を「T2」、血の構成成分である「鉄」と解釈を進め、最終的には「助けて。血が欲しい。」という内容を表現する意図のために採用されたのではと考えました。

 

二度目のSOSで街灯は一つを残し全消灯。原作とは違い、街灯は路上だけではなく地下鉄の入り口を弱々しく照らします。
個人的にはここからキスショットと出会う前までが疑問点がかなり増えるシーンとなります。
血を辿り先へ先へと歩いていく暦ですが、いくら好奇心からの行動と言えどわざわざ血の上を踏むように歩くことはないのではないでしょうか。また、道中血が飛び散った場所の理由が見いだせませんでした。あそこで戦闘が行われたとすると、キスショットがあの場所で横になっていられることは不可能ではと思います。
そもそも階段の途中や改札、エスカレーターで血が消えたり、服に血が付着しなっかりはこれはそういうものと思う他ないでしょう。
もう後戻りはできないと言わんばかりに全てが下りの方向に動くエスカレーター。途中電気が着きSOSの連打で結末を煽り、こちらも息を飲んでいました。

 

劇場版ではここで紙袋を落としまいつつ、キスショットを発見する暦。腕の他にも足がないことに気付き投げ飛ばす瞬間は最もホラーな一幕ではないでしょうか。
そして会話が進み、ROUGEとも赤駒ともでない真っ赤な画面の上で血をよこせと言うキスショットにはこれまでよりも輪を掛けた緊張感が走りました。
N09直江津の地下鉄ホームを無人に見える電車が通過。ここで一気に確信へと近づく場面を更に盛り上げるものとなっているのかと思います。
殺されると確信した暦。ここで暦の脳内に駆け巡るイメージの逃げたいが引き戻される描写には胸が締め付けられる思いでした。
後ずさりからキスショットの命乞い。涙を流しながら死にたくないと懇願するキスショットの姿に気が動転し、目の表現で正気が飛びそうな心をあぶり出していた部分は素直に引き込まれました。

 

懇願の声に混じり赤子の泣き声が重ねられもう一段階上げられた緊迫感。そのまま原作と同じように透明の涙が血の涙へと変貌を遂げ、出口へと逃げるため走り出す暦。
ここで暦はただ単に恐怖の存在と恐ろしい出会い方をしてしまった事実を否定する事のみが表わされているので、この先の救いの手を差し伸べるまでの心の動きがより理解し辛いのがまた一つ残念なポイントでした。
ここでは暦がキスショットのことを心の底から綺麗だと思い、目を逸らせない程惹かれ、この存在はこんなところで無様に死ぬべきではない高貴さを持っているんだと認識し、だからこその心の動きであるので、よくわからないまま助けに戻ってしまったなと感じる人が多いのではと思いました。また、逃げている時の道にも血痕はありません。
しかし、暦の自らに言い聞かせるような独り言から「わかってんだよそんなことは!」までの間が体感ではかなり長く感じ、叫びがとても際立っていて良かったです。

 

覚悟を決め引き返す暦、無音の中走る影が映るシーンからの「諦めんな、馬鹿!」から感動を覚え始めました。
繰り返しますが、ここでの暦は自分の凡庸な人生を、この高貴で美しい吸血鬼の窮地を救うために投げる決意をしています。原作で描かれる表現で言えば、人より上位の存在に対して、下位の存在としての誇りを持って続きの台詞を紡ぎます。劇場版オリジナルの演出で、ここでキスショットの胸に顔を埋めて台詞を呟きますが、その様な思いと家族との別れに関する未練が入り混じっての行為であり、始めは動転していたような顔だったものの、その話を聞く頃には冷たくも美しい目で静かに耳を傾けるキスショットの高貴な表情も相まって更に引き込まれていきました。
「ありがとう…」といいながら首筋を一舐めし、吸血を始めます。恍惚の表情を浮かべる暦と共に倒れ込むキスショット。ここのシーンの美しさだけは何度見ても涙が溢れてきます。他の物語で語られる事でみえてくる二人の気持ちがここで初めて一つとなる瞬間は正に万感の思いといったところでした。

傷物語Ⅰ鉄血篇 ネタバレ感想考察2

○友達
[原作 002章(13P~34P)]

 

時系列は遡り3/25(土)、終業式終わりの午後。
宿題もなく友達もいないため、暇を持て余してしまい家にも学校にも居辛かった暦。
原作では通学用の自転車を学校内に置いたままの散歩となっていますが、この場面の最後に徒歩で帰宅しているような箇所が見受けられるため、今作では徒歩で通学、もしくは通学用の自転車を持っていない設定と考えられるかもしれません。

 

二度程差しこまれる桜のカットは、この後にアクシデントで見てしまうこととなる羽川の下着のメタファーみたいなものなのでしょう。
直江津高校の校門前で鉢合わせる三つ編みの位置を直すために両手が不自由となっている羽川と暦。そんな時に突然発生した自らの身体を支えきれない程の突風。
スカートがめくれるくだりは、モノローグが存在しない構造のため、原作で暦が展開する細部までの描写がカットされてしまったところは残念でした。
そこから初対面である二人の会話が始まりますが、その間横断歩道の信号は最後まで赤。お互いがまだ会話をしたいと思う気持ちと連動しているのでしょうか。

 

羽川からの質問に嘘で返答する暦。ここで道路の車が事故を起こす演出。
デフォルメ羽川の可愛さももちろんですが、暦に対し逆光で会話を続ける羽川がどこか神々しいイメージを植え付けます。
ちなみにこの場面では風が一度止みますが、その場を離れようとする暦を引き止める際にまた風が吹きます。
この会話シーンでは、数回風が吹いたり止んだりを繰り返す演出がなされていますが、その切り分けとして羽川と暦、二人の心の距離が縮まる時は風が吹くように感じとれました。
また、この時の羽川の追いかけるカットから暦の制服を掴むカットがとても好きです。
ベンチでのシーンに移り、宇宙人ギャグ。このギャグが作中一番劇場内で笑いが起きた印象でした。

 

少し唐突に始まる吸血鬼の噂話。逢ってみたいと語り人より上位の存在に憧れる羽川。
そこで差しこまれる赤い傘を片手に土砂降りの中俯く羽川が、この時の彼女の家族境遇を表現しているのでしょう。
ここでも逆光の中話を続ける羽川。神々しさを感じる羽川にも憧れや弱さを垣間見え、先程の同じようなシーンとはまた違う複雑な気持ちが生まれました。
ただ、人間強度が下がる話で二人の距離が明確に離れた時は少し笑ってしまいました。

 

横断歩道へと戻り、携帯に無許可で番号とアドレスを入力した上で「ざーんねん。友達、できちゃったね」。
ここで今まで大袈裟に吹いたり止んだりしていた風が最後に優しく吹き抜けます。
一人密かに微笑みながら帰路に着く暦。ここで先程演出で事故を起こした車がそのまま放置されています。ここでも劇場はまた一笑い。

 

ここからシーンは夜へと移り変わります。

傷物語Ⅰ鉄血篇 ネタバレ感想考察1

傷物語Ⅰ鉄血篇

 

2016/1/8劇場公開
上映時間64分

傷物語三部作の一作目

 

この作品を鑑賞した際、テレビシリーズとは異なる様々な変更点が目につきました。
過去にテレビシリーズで登場した建物や街並みが引き継がれていないこと、黒駒、赤駒がそれぞれNOIR、ROUGEとなっている等フランス語が多用されていること、全体を包むキャラの色味、原作にある暦のモノローグがカットされている等々。
これまでのシリーズがとても好きな私は、まずこの劇場版ならではの違いを理解し、前提に置いた状態で、二回目以降の物語を楽しむところからスタートしました。

 

○炎上
[原作 004章(58P~60P)]

 

冒頭、この物語は3/26から4/7までのお話という駒から始まり、白黒反轉後、傷物語でデザインが一新された学習塾後の廃墟にそびえる大木が登場します。
3/28の16時半頃、息を切らした暦は自身の体が吸血鬼化した事に気が付かず、自らの意思で太陽の下に足を踏み入れ、炎上して一度力尽きるまでの話。

 

ここで暦に注目すると、建物内とはいえ既に彼には影が薄らとも無いことが解ります。
他に登場人物が一切でてこないシーンなので、展開を知らないとまず見逃してしまいそうです。
暦はまず建物内のどこかから最上階となる8Fへと登り、そのまま外へ出ます。
外では薄暗い天気の中、カラスが大挙して集まっており、何か嫌な事が起こる前触れを感じさせます。
原作では暦が目覚めた部屋は2F。部屋を出て少し考えた後、階段を使い1Fへと降りていくシーンなので、この時暦がなぜ一度エレベーターと階段を使って最上階へと登っていったのか不明です。
無断外泊で家を二日程留守にする事態を認識しつつ、建物を物色する余裕はないのではと感じましたが、解釈するのであれば、気が動転してといったところなのでしょうか。

 

カラスの群れから視線を受けつつ外へ出た暦は、目を劈くような太陽光に眼球を傷つけられる様に見えるシーン。
曇天から漏れる光が僅かであるため、再生能力を持つ暦は気付かず眩しいなと感じるに留まります。
そして実際には飛んでいないヘリのプロペラ音と共に、空撮アングルのカメラから捉えられる暦。
そこからシーンは切り替わり、たなびく日本国旗が画面いっぱいに映し出されます。
この日本国旗の質感や雰囲気など、不穏な怪しさの表現され方がとても好きです。
またこの日の丸が、直後に起こる吸血鬼の天敵、太陽の出現を示唆しているのでしょう。

 

不吉な無数のカラスが目につく中、外の階段を降りる暦ですが、ここでもなぜその階段を降りようと思ったか、私にはいまいち見えてきませんでした。
一旦「大まかな現在地を把握するために外の様子を伺うため」という解釈でこの場面を理解します。
ただこの階段を降りる際の辺りを警戒する様な暦の表情は、今作一のかっこ良さではないでしょうか。

 

階段を降り切り、おもむろに上空を見上げる暦。
薄くなっていく雲の隙間から太陽の光が漏れ、吸血鬼である暦の身体は燃え上がります。
熱さに耐えきれない暦は無数のカラスの群れが羽を休めている中をもがき苦しみながら駆け抜けますが、すし詰めとなったカラスにより、黒いカーペットと化した場所を、炎上している暦が通った箇所のみ、カラスが逃げたことによって色を変えていくシーンはとても引き込まれました。
そのまま建物から飛び降り、吹き飛ばされながら道に倒れ込む暦。
飛ばされ転がっていく暦を画面が追い越してしまい、置いて行かれた暦の右手だけがフレームに映る瞬間もとてもよかったと思いますし、そのまま太陽光線に焼かれつつも再生し続けているという、アニメで表現するには一筋縄でいかなそうな点を、目の色で表わしていたところもいいなと思いました。

悠然とただそこにある国旗のアップ。この時既に晴れた青空の下にあるはずなのにどこか怪しいです。

そしてタイトルが出た後、物々しいOPへと画面は移ります。