読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

感想文ブログ

作品をもう観たという方に、私の個人的な解釈を伝える為の内容を溜めます。

傷物語Ⅰ鉄血篇 ネタバレ感想考察3

○吸血
[原作 003章(34p~54P)]

 

昼の出来事を引きずった暦。その気持ちのまま夜に自宅を内緒で抜けだし本屋さんへ。
その帰り道に瀕死の吸血鬼、キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードと出会う。
暦はキスショットを救うために自らの生命を持って人より上位の存在を救うまでのシーン。

 

鞄の動きと暦の部屋の時計とがリンクして数時間後の夜のシーンへと場面が切り替わります。
この時の時計が回転している演出が、化物語一話における戦場ヶ原と出会う直前に入る校庭の時計が回っている演出を連想させ、この先になにか大きな出会いが待っていることを予感させます。
部屋を飛び出し、家族に外出した事を悟られぬよう徒歩で書店へと向かう暦。
サイボーグ009、やる気まんまんのオマージュ等を挟み書店へと急いで駆け込みますが、ここでの暦は単純に羽川の下着を見てしまい興奮を抑えるためではなく、あんなにいいやつである羽川に対して劣情の様なものを抱いてしまっている自らを苛み、その感情を消すために元となる羽川の下着の記憶を薄めようとした為の行いである点がほぼ解らない作りになっています。
ただ、このモノローグも言い訳の様に語られている点なので、実際はカットされても致し方なしという部分なのでしょうか。
書店へと到着した際に場面が切り替わっての壁で、今作二番目に劇場が沸いた感じでした。
目的の本を購入し帰り道、最初のモールス信号が発生します。このモールス信号は「SOS」を意味すると同時に、構成する「トン・ツー」を「T2」、血の構成成分である「鉄」と解釈を進め、最終的には「助けて。血が欲しい。」という内容を表現する意図のために採用されたのではと考えました。

 

二度目のSOSで街灯は一つを残し全消灯。原作とは違い、街灯は路上だけではなく地下鉄の入り口を弱々しく照らします。
個人的にはここからキスショットと出会う前までが疑問点がかなり増えるシーンとなります。
血を辿り先へ先へと歩いていく暦ですが、いくら好奇心からの行動と言えどわざわざ血の上を踏むように歩くことはないのではないでしょうか。また、道中血が飛び散った場所の理由が見いだせませんでした。あそこで戦闘が行われたとすると、キスショットがあの場所で横になっていられることは不可能ではと思います。
そもそも階段の途中や改札、エスカレーターで血が消えたり、服に血が付着しなっかりはこれはそういうものと思う他ないでしょう。
もう後戻りはできないと言わんばかりに全てが下りの方向に動くエスカレーター。途中電気が着きSOSの連打で結末を煽り、こちらも息を飲んでいました。

 

劇場版ではここで紙袋を落としまいつつ、キスショットを発見する暦。腕の他にも足がないことに気付き投げ飛ばす瞬間は最もホラーな一幕ではないでしょうか。
そして会話が進み、ROUGEとも赤駒ともでない真っ赤な画面の上で血をよこせと言うキスショットにはこれまでよりも輪を掛けた緊張感が走りました。
N09直江津の地下鉄ホームを無人に見える電車が通過。ここで一気に確信へと近づく場面を更に盛り上げるものとなっているのかと思います。
殺されると確信した暦。ここで暦の脳内に駆け巡るイメージの逃げたいが引き戻される描写には胸が締め付けられる思いでした。
後ずさりからキスショットの命乞い。涙を流しながら死にたくないと懇願するキスショットの姿に気が動転し、目の表現で正気が飛びそうな心をあぶり出していた部分は素直に引き込まれました。

 

懇願の声に混じり赤子の泣き声が重ねられもう一段階上げられた緊迫感。そのまま原作と同じように透明の涙が血の涙へと変貌を遂げ、出口へと逃げるため走り出す暦。
ここで暦はただ単に恐怖の存在と恐ろしい出会い方をしてしまった事実を否定する事のみが表わされているので、この先の救いの手を差し伸べるまでの心の動きがより理解し辛いのがまた一つ残念なポイントでした。
ここでは暦がキスショットのことを心の底から綺麗だと思い、目を逸らせない程惹かれ、この存在はこんなところで無様に死ぬべきではない高貴さを持っているんだと認識し、だからこその心の動きであるので、よくわからないまま助けに戻ってしまったなと感じる人が多いのではと思いました。また、逃げている時の道にも血痕はありません。
しかし、暦の自らに言い聞かせるような独り言から「わかってんだよそんなことは!」までの間が体感ではかなり長く感じ、叫びがとても際立っていて良かったです。

 

覚悟を決め引き返す暦、無音の中走る影が映るシーンからの「諦めんな、馬鹿!」から感動を覚え始めました。
繰り返しますが、ここでの暦は自分の凡庸な人生を、この高貴で美しい吸血鬼の窮地を救うために投げる決意をしています。原作で描かれる表現で言えば、人より上位の存在に対して、下位の存在としての誇りを持って続きの台詞を紡ぎます。劇場版オリジナルの演出で、ここでキスショットの胸に顔を埋めて台詞を呟きますが、その様な思いと家族との別れに関する未練が入り混じっての行為であり、始めは動転していたような顔だったものの、その話を聞く頃には冷たくも美しい目で静かに耳を傾けるキスショットの高貴な表情も相まって更に引き込まれていきました。
「ありがとう…」といいながら首筋を一舐めし、吸血を始めます。恍惚の表情を浮かべる暦と共に倒れ込むキスショット。ここのシーンの美しさだけは何度見ても涙が溢れてきます。他の物語で語られる事でみえてくる二人の気持ちがここで初めて一つとなる瞬間は正に万感の思いといったところでした。