感想文ブログ

作品をもう観たという方に、私の個人的な解釈を伝える為の内容を溜めます。

傷物語Ⅲ冷血篇 ネタバレ感想考察3

○断決
[原作 015章(267P~299P)]


吸血鬼本来の在り方を、キスショットによって衝撃的なシーンで突き付けられた暦。自分のしてきた事、今まで戦ってきた相手の正義、忍野の言葉等、これまで見ようとしてこなかった現実に押し潰されそうになった暦は、羽川に最後の別れを告げようとする。

 

4/7。私立直江津高校の体育倉庫で暦は爆発した自責の念を物にぶつけ回ります。ここの場所の説明などは一切ありませんが、校庭が競技場のようになってしまっているため、特に仔細ないところでしょう。
ここに来る前の会話で、キスショットの「しかし従僕よ、食べなければ死んでしまうぞ?」と純真無垢な顔で言い放つ姿は滑稽でありながら、かなりの絶望感を与えてきます。そして、暦自身もお腹が空いて来たと同時に思い出す忍野の言葉。全てが間違いだったと思う暦。ただここでの「考えたくない!」という暦の原作描写が挟み込まれていればもっと吸血鬼性がクローズアップされ、凄惨なシーンになったのでがないかと思います。吸血鬼のパワーを考えると、あの程度の体育倉庫内での荒らし方ではどうやってもフルパワーとは思えないでしょう。


午後五時、死ぬ前に羽川にだけは言っておきたい、話しておきたいと思う暦。主人であるキスショットが、死を惜しみ暦と話がしたかったように。
消したはずの羽川のアドレスが、再度勝手に登録されていたことを涙ながらに確認。電話だと泣いてしまうという理由からメールで羽川を呼びだします。ここでの羽川の早打ち即返信メールは是非とも入れてほしい場面でしたがカット。笑いどころでもあり、羽川の異常性が更に色濃くなるいい場面だと思いましたがそのまま登場シーンへ。

 

家に居場所がなく、家族からの干渉が存在しない羽川からすれば、どうということではない時間帯。「女の子の届け物です」と羽川なりのジョークを飛ばしつつ体育倉庫へ入場。本来、暦が入口にバリケードを張り直す場面でのわざとらしい羽川の閉じ込められちゃった発言ですが、密室に理外のパワーも持つ存在と二人きりということで、特に印象に変化はなし。「懐中電灯、オン」で人間である羽川と吸血鬼である暦の影の有無が浮き彫りになります。
恐らくメールの時点で死を選ぶ事を察していた羽川は、暦に自殺を踏みとどまるよう説得します。ここで羽川が暦の心を引き留める度、暦の身体を掴む手の数が増えていく表現がありますが、展開に引き込まれて観ているとグッと来たところでした。「だったら、食べなよ」と言い放つ常軌を逸した発言から、傷物語名言の一つであり、羽川の異様な人間性が垣間見れる「相手のために死ねないのなら、私はその人のことを友達とは呼ばない」。この時既に暦を意識していたとしても、到底たどり着けない気持ちを言葉にして暦に投げかけます。流石に羽川のこと、嘘というわけではないと思われますし、これほどまでの相手を一瞬で奪われてしまった化物語での展開を機に、再度怪異化してしまうのも頷けてしまいます。
そして、「阿良々木くんにも?」というきっかけから、暦を前に向かせる事に成功した羽川。この時光が射した体育倉庫の中、暦の表情の前を左右に踊る羽川の影は、羽川という人間の世界から吸血鬼の世界にいる暦への、こちらに帰ってきてというエールともとれる希望に満ちた絵に見えました。
「僕が、キスショットを退治する」、生まれ変わったような暦の頭を撫でながら「表情が変わったね」という高揚感あるシーンへと進みます。ここでなぜ暦がキスショットを退治することで全ての解決に至るのかが語られていないため、後の戦闘でさらっとキスショットが言う台詞に肩透かしの様な気持ちになる方も多いのではと思いましたが、この高揚に水を差すような事になりかねなく、微妙なところではあります。