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感想文ブログ

作品をもう観たという方に、私の個人的な解釈を伝える為の内容を溜めます。

傷物語Ⅲ冷血篇 ネタバレ感想考察6

○提案
[原作 017章(328P~346P)]

 

キスショットの本意を知る暦。殺すことも助けることも出来なくなった暦は忍野に助けを求める。そこで忍野が提案した全員が不幸になる案を受け容れ、暦はキスショットと一生共に生きていく事を決断。

 

吸血をふいに止める暦。原作ではキスショットの血を吸いつつも、これまで残っていた違和感や、羽川が乱入してきた意味などを改めて考え直し、重大な見落としに気付いた上で吸血している牙を抜くに至った描写があるのにも関わらず、ここではそういった心の動きは一切なく、本当に突然「どうやって人間に戻すつもりだったんだ?」との問いが投げかけられます。この場面は確信的な違和感を暦が気付かなければ、あれだけ決意を固めた主人を殺すという最終目標を前に決して吸血を止めないでしょうし、仮に描写なしで気付きを得ていたとしても、この後に続く羽川の「殺されるつもりだったんですか?」という問いかけに動揺する暦のリアクションが繋がりません。そして何よりもここから羽川がロジカルにキスショットのおかしな行動を紐解き、遂には本当の事を喋ってもらう事に成功するまでの流れがほぼカットで、キスショットが早々に折れてしまうような描写になってしまっている事が本当に残念でなりません。なぜわざわざここに来たか、そしてなぜ羽川を殺す機会があったにも関わらず殺さなかったか。また、そこの気付きに対してのヒントともなったエピソード戦など、特に失ってはいけないような場所に思いました。

 

羽川に真意を見抜かれ呆然と本当の事を語り出すキスショット。一人目の眷属との思い出の場所である日本を死に場所に選び、自殺を図ろうとしたものの、殺されかけた際に死を恐れ助けを求めた事と、これまでの彼女の心情が吐露されていきます。ですが、このままの話の流れ上、羽川が乱入したことが全ての状況を悪くしたような描き方が腑に落ちません。確かに羽川が出てこなければ適当な頃合にキスショットが隙を見せ暦に殺されていたでしょう。ただ、キスショットの真意を気付いた暦はそれを良しとせず、その事実を知らなければ「ただの道化として、人間に戻っていた」「誰も幸せになっていない」「キスショットに全てを押しつけているだけだ」とまでの想いを持っていて、結果的に羽川は暦を本質的に救っているのです。あのギロチンカッターを喰らうキスショットをみて覚えたような後悔を、再びさせないことに成功していたこと。この点を全て抜いて話が進むのは話の本筋とも羽川のキャラクターとも相容れないのではと思うばかりです。

 

運命の選択をしなければならない窮地に立たされた暦。当然のようにいるはずの忍野を呼び、仕事を依頼します。
全裸だった暦がいつの間にか服を着ているのはなぜでしょうか。物質創造能力はないはずなのですが、吸血に伴うエナジードレインで可能となったと解釈。
暦からの無理な依頼に渋々捻り出した「全員が不幸になる」というプランを提示する忍野。抵抗しようとするキスショットの髪を撫でる、吸血鬼の服従を表す行為をはさみ、憐れむ顔で「僕はお前を、助けない」という最終決定を下します。


○傷物
[原作 018章(346P~355P)]

 

全てが終わり、人間としての日常が帰ってきた暦。後遺症を残しつつも、新学期を無事に迎える。共に生きていくと決めたキスショットは八歳の少女の如き見た目に姿を変え、暦からただ黙って命を繋ぐだけの吸血を行う。


4/8。登校途中に出会う暦と羽川。そして学習塾跡の屋上で語り合う暦と忍野。なぜか学ランの下は裸の暦。準備がいいという話なのかどうなのか。
原作とはそれぞれシーンが違うことは問題ではないのですが、羽川のキスショットに対する考察や、忍野の猫物語化物語へと続く伏線のような忠告等々、ここも残っていればと思う台詞が多くあった場面でした。
忍野が言う「さして美談ではないな」という第三者からみた感想が、先に述べた暦自身の物語の捉え方との違いとの対比となり、この傷物語という作品を立体的にしていると改めて思いました。

 

「僕はそれを、誰にも語ることはない」
この物語は暦とキスショットの大切な出会うきっかけであり、それと同時に二人にとって悪夢ともいえる春休みの期間を語る傷の物語となりました。